多大な被害をもたらした1995年の阪神淡路大震災をきっかけに、行政はもとより、企業・市民においても防災に関する取り組みが積極的に行われてきています。
しかしながら、大規模広域災害が発生した場合、高齢者、障害者、子どもといった「災害弱者」は避難・避難所生活で最も不利益を被ることが予想されます。
そこで今回障害者保健福祉部では、身体に障害のある方々が大規模自然災害に対して、どのようなことに不安を感じ、どのような援助を必要としているかについて、アンケートを行いましたので、その結果をここに報告します。
〈対象者〉
大阪府下の2ヶ所の病院と3ヶ所の障害者福祉施設を利用している、在宅障害者本人あるいはその介護者あわせて117人を対象としました。対象者の移動方法、日常生活の状況は、図1・2の通りです。
〈防災意識〉
防災に対する意識は、「常にある」47%、「時々思い出す」とあわせると88%以上の人が何らかの防災意識をお持ちでした。
また、移動手段、および日常生活活動の自立度ごとの防災意識は表1の通りですが、車椅子で移動しているよりは歩いている方、また、日常生活の自立度が高い方のほうが防災意識を常に持っている傾向がありました。
表1 防災意識と日常生活自立度・移動手段 |
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移動手段 |
日常生活の自立度 |
歩いている |
車椅子を自分で操作 |
車椅子を押してもらっている |
自立 |
一部介助 |
すべて介助 |
意識あり |
63.4% |
30.8% |
46.8% |
54.2% |
44.7% |
46.7% |
時々 |
26.8% |
56.4% |
41.9% |
35.4% |
42.5% |
46.7% |
なし |
9.8% |
12.8% |
9.3% |
10.4% |
12.8% |
6.6% |
表2 災害時困ること不安なこと(一部抜粋)
- 自分の足が悪いので逃げるのに不安
- 義足をつけることができない場合の松葉杖移動に対する不安
- エレベーターが使えないと動けない
- 動作が遅い、走れない
- 移動・移乗に困る(停電の場合、リフトが使えない)
- 一人で逃げられない
- すべて不安
- 自分自身動けないので声をだすか電話する
- 全介助のため非難は不可能
- 避難先で過ごすことは不可能なので共倒れを覚悟している
- すぐに助けてくれるか心配
- 避難所生活は無理
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〈災害時の不安〉
災害に対する不安について、自由記載にて記入いただいたところ、80%の人が何らかの不安をあげておられました。また、対象者の移動手段ごとにみると、不安を記載した方の割合は、歩行している方が59.3%、車椅子を押してもらっている方が80.0%、車椅子を自分で操作している方が87.5%でした。不安の内容としては、「避難できない」が圧倒的に多く51人の方、次に「避難所がバリアフリーでない(特にトイレ)」が24人でした。 表2にアンケートの一部を抜粋してあげていますが、回答のほとんどは障害があるために、無事に非難できるかどうか、あるいは避難所で生活できるかの不安でした。
〈災害に対する備え〉
災害に対してどのような備えをしているかを8項目(備えなしも含む)の中から選んでいただいたところ「避難場所の確認」が最も多く22%、次に「家具などの転倒防止」が19%でした。逆に「何もしていない」も3位、18%を占めていました。(図3)
表3 持って逃げるものベスト5
1位 お金・貴重品 27件
2位 水 20件
3位 薬 18件
3位 食料 18件
5位 排泄用具
(カテーテルなど) 15件
*ランク外ですが、特有回答
健康保険証 10件
身体障害者手帳 8件 |
〈持って逃げるもの〉
避難時に持って逃げるものについての自由記載では、「お金」が圧倒的に多かったです。また、「薬」、「排泄用具」がそれぞれ3位、5位に入りました。ベスト5は、表3の通りです。また、圏外ですが、障害者の特徴を示すものとして「健康保険」「障害者手帳」という答えも複数ありました。
〈災害に対する援助〉
災害に対する支援・援助について、自由に書いていただきました。最も多かったのは、障害者の必要な物品(オムツなど)が用意され、トイレなど使いやすい「避難所の準備」で、17人でした。次いで「移動の確保」が10人、「災害後の援助」が5人でした。また、「障害者家庭を把握してほしい」という意見が3人いらっしゃいました。(表4)
表4 災害時の援助・要望ほか(一部抜粋)
- 近隣の人達との助け合いが大切。普段からの付き合いが出来ればよいと考える。
- 避難場所までいけない場合は自宅にいるつもりです。あきらめます。
- 介助がほしい、家族以外誰に依頼すればいいかわからない。
- 簡易ベッド、トイレ、紙おむつを避難場所に準備して欲しい。
- 必ず見まわりをして欲しい。
- 動くことができないので助けに来るまで待っている。
- 学校の体育館などの避難所は障害者が一時的にでも、暮らせる環境では全くない。自治体で障害者の居住状況を把握して障害者でも受け入れる事が出来る体制を作って欲しい。また、それ以前に救助体制も整えて欲しい。
- 市役所などが支援を必要とする人を把握して、誰が支援をするのか示してほしい。
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〈不安をやわらげるために〉
障害をもつ方の災害時の不安を少しでも軽減するには、どうすればよいのか。
平成17年3月、国の調査の結果に基づき、「災害時要援護者ガイドライン」がつくられました。その中に、3つの問題点が述べられています。
- 行政の防災関係の部局と、福祉関係の部局との連携が不十分で、避難してくださいなどの情報がうまく伝えられないこと。
- 要援護者の情報が得られていない、あるいは、得られたとしてもプライバシーの問題がありその情報を知っている人が限定されている。
- 要支援者を誰が支援するかなど支援行動が計画されていない。
全国各地で、先駆的な取り組みをする地区(大阪では、藤井寺市)がありますが、ほんの一部です。
今回のアンケートを通じて障害のある方は、こうした取り組みを待つのではなく、日ごろからお住まいの市町村に「災害時こんなことが困る、どうしたらよいのですか」と訴えるとともに、近所の方、民生委員、あるいは自治会などの自主防災組織に自分の存在を知ってもらうことが大切だと思います。 |